いのちの幕引き
いのちが生まれるとき、その出産の壮絶さは、わりと誰もが知っている。
でも、テレビでも映画でも、
人の死の瞬間というのは、わりと静かに、ふっと、ろうそくの火が消えるように音もなく、
みたいな感じに幻想的に描かれている。
けれど、いのちが消えるその瞬間は、
ほんとうは、こわくて、壮絶だ。
壮絶な物語がそこに、ある。
この数年で、いくつかの死を、目の前で見てきたけど、音もなくしずかに亡くなったひとはひとりもいない。
人生のいちばん最期の仕事として待っている、いのちの幕引きは、けして容易くないのだ。
肉体から魂が離れていくその作業、
それは壮絶で、生きている人間が、たまに耐えられないくらいの景色がそこにある。
死や、死のそばにいるひとの気配はこわい。
こわいと感じることが、生きているということ。
いのちの幕引きをする人は、
それを全力で、生きているわたしたちに教えてくれる。生易しいものじゃないと、きれいごとじゃすまないと。
それを見て、のこされたわたしたちは、生きているということを改めて考える。
生きているということとはなにか。
その向き合う時間こそが、亡くなった人たちが遺してくれたもの。
だって、あんなふうにもんどりうって、わたしたちは生まれてきたのだもの。
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