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2015年9月15日 (火)

黒蜥蜴

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美輪明宏の代表作とも言えるこの作品を、18年前に見過ごした。
以来なんとなくそのまま見送ってきたのだが、美輪さんが今季で「黒蜥蜴」をおしまいにするとの発表があってから、同じ時代にこの宝と、わずかでも重なって生きているのにこれを見ない手がありますかとチケットを取った。

マイケルと清志郎が続けて亡くなった最悪の6月以降、わたしは出来る限り見たい物は生で、なうで、観るようにしている。 

美輪さんは今年80歳だ。
いくら凄まじい美貌の持ち主であっても、御年80歳である。
わたしは観客はきっとそこに若き日の美輪さんの姿を重ねて観劇するのだろうなと思っていた。わたしもそう思っていた。                              
もしそう思っている人がこの読者にもいたらその考えを改めてもらいたい。                              
80歳の美輪さんの演じる「黒蜥蜴」の、なう!美しいこと、美しいこと。                              
まず、あんなに美しく長いドレスをさばいて立ち振る舞える女優が日本には他にいないだろうし,

〈けしてドレスは扉にはさまることなく、ドレスがするりと消え扉が閉まるあの出入りの間の完璧なこと!〉

三島由紀夫が紡ぐ、ある意味シェイクスピアみたいな台詞をあれだけ歌うようによどみなく話ながら、必要な部分を立たせて聞かせる技術を持っている役者もあまりいないだろうし、〈そして絶対に噛まない〉 なにしろ、

あそこまで舞台の上に圧倒的なベクトルを持って立てる人は、ほんとうに数少ないだろう。

わたしは美輪さんのちょっとした仕草、ちょっとした言い方や、動きの選択に、走馬燈のように人生のコストを見た。珈琲屋のボーイの美輪さん、銀巴里の美輪さん、長崎をくぐりぬけた美輪さん。                                                           
美輪さんはただ役者なだけではない、たくさんの夜を生き抜いてきた、夜の世界の人でもあるのだ。 自分という存在が、類稀な美貌をもってはいるけれど、わりと小柄なホモセクシャルのボーイだとして見世物のように扱われていた時代から、彼—あえて丸山明宏とするならーはけして誰にも媚びず、かといってお客様という存在をけして金づるのようにはとらえず、誇りをもって大切にしながら、たくさんの夜をくぐり抜けてきた。                              
そうだよなあ、今は扱われ方がすっかり変わってしまったけれど、そもそも歌うたいや役者や芸能人というものは、ほんとうに人生の荒波に放り出されて、たくさんの他人に助けられたり騙されたりいろんな経験をしながら、夜の帳を生きてきた人の職業なんだよなあ本来は、などと改めて、わからされたりしました。                                    
三島由紀夫の父は「文筆業、株屋、芸人は正面玄関から入れるな」という昔気質の人で、三島さんは父に内緒で隠れて小説を書いていたとあった。                                                            

三幕物で、休憩を入れると4時間弱もある「黒蜥蜴」だが、すこしでもダレるようなシーンはなかったし、毎回すこしづつ演出を変えて新しくしているのだということは初めて観劇した人間でもわかった。                              

江戸川乱歩が書いた原作を三島由紀夫が戯曲にして、それを美輪明宏が舞台にする。このすばらしい聖火リレーを目の当たりにして、芸術の底知れぬ力に、わたしはとことん圧倒されていた。乱歩の独特の妖しい世界奇抜なトリックが三島由紀夫の美しく耽美な台詞にふちどられてそれを圧倒的な美で三輪さんが演じる。                              

ほんの四時間の間に、作品としての質の高さはもとより、歴史とか、芸術というものの扱われ方や、いろんなものが清濁合わさって押し寄せてきて、 「人生」を教えられた気分。                              

パンフレットからの引用ばかりで申し訳ないが、
美輪さんが「黒蜥蜴」を上演し続けるその理由を、 自身の才能や存在価値ではなく、                              
「江戸川乱歩氏、三島由紀夫氏、寺山修司氏始め多くの物故せられた天才方に託された私の責務と心得る」                              

と記しているところが印象的だった。

「かの天才達の珠玉の作品をリアルタイムで感じて頂く使命の為の私の生命」

そう書ける人の演じる黒蜥蜴だから80歳でもあんなに美しく、いのちに溢れているのだ。

シャンデリアをピストルで打ち落として、みながひるんだ一瞬の隙を突いてさらりと夜の中に消えていく。 1幕の終わりの黒蜥蜴はほんとうに格好良かった。

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〈月曜モカ子の”私的モチーフ”vol.29「人生のコストと黒蜥蜴」より抜粋〉
全文はコチラ→https://www.facebook.com/mocakonovel

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