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2015年8月28日 (金)

港からの橋

港からの橋
港からの橋
船パリのことを船を見ながら考えられるようにと、
「月子とイグアナ山椒魚」のモデルになった妹が、
横浜にホテルをひと晩とってくれました。

”わたしには何もありません”
そんな言葉で始まる真っ白でまっさらな篠山月子の人生の船出。

彼女は最初これを読んだとき、
「わたしのこと、何もないって思っているんや」と言いました。何かがあって物書きをやっている姉にそう言われるのはとても辛い、と。

そうじゃないことがいつか伝わるといい、そう思っているうちに、そして船パリが停泊しているこの数年に、”なにもなかった”真っ白の妹は、たくさんの文化人を取材して記事を書くライターになり、生涯の恋をして、
わたしたち姉妹4人が誰も経験したことがない世界をいちばんに切り拓いてゆきました、
もう何もない篠山月子、いや、妹ではありません。

まさに船パリの聖地といえる「港」のそばで、昨夜2015年の「中島桃果子」の、すべての方程式を解く。
そんな気持ちで天守閣へ入室。
(801号室なので天守閣というほどあれではないが。笑)

ふたり泊まれる部屋で、お連れ様の名前をと言われたので、
本名の隣に中島桃果子と書いた。
杉田昭子が中島桃果子と宿泊。これはある意味圧倒的に正しくて。

いままでわたしは、橋を渡って物語を連れてきてくれる中島桃果子に委ねすぎていた。
けれども本当は筆を握るのも、決断をするのも、杉田昭子でなくてはいけないのだと気付き始めています。とくに、現在昭和3年、3年後には戦争に突入してゆく、船パリの物語のここから先の舵をきるときなんかは。

船パリは時代小説ですが、戦争小説ではありません。
あくまで上海バンスキングに捧ぐ、ジャズと愛と芝居に満ちた音楽劇です。

大正12年に船出をした篠山月子も、もう「なにもない」篠山月子ではなくなりました。

そんな物語の続きについて、横浜港に停泊する、夜の氷川丸を眺めながら考える。
♩あなたーとふたりーで来た丘はー港が見える丘〜

そんなことを考えながら、「あけびちゃん」を書く。笑。
(こちらの納期が差し迫っていたため)

でも、どっちも同じことだと、
物語を連れてくる中島桃果子だけに任せず、わたし、つまり杉田昭子が遣いをやっているのだと強く自覚して凧の糸をグッと握る、そのことを思えば、あけびちゃん↔︎船パリというのは、切り替えが簡単にできるのであります。
全然違う物語なのに不思議。

思えば「港が見える丘」は、18歳のときに出会った井上ひさしの戯曲「花よりタンゴ」のもっとも大切な場面転換に使われています。
(ト書きで指定されている)

4姉妹の長女の蘭子さんが、寝静まったダンスホールでこっそりパトロンに金策の電話をかけているのを妹たちが隠れて聞いているシーン。

中秋の名月に青く照らし出されたダンスホールに、いつもはドレスの蘭子さんが、寝巻き、つまり浴衣で現れる。そこに流れているのがこの港が見える丘なのです。
ときは昭和22年、終戦からまだ2年の銀座のダンスホールの物語です。わたしは3回とも蘭子さんを演じました。

芝居は下手ですが、金策に奔走する劇団の座長として、臨場感から来るリアリティだけはあったかと思います。笑。

これを親友の熊田が見つけて、上海バンスキングのかわりに、わたしたちはこれを上演しました。
大学で1回、劇団を旗揚げして1回、それから本物のジャズメンたちと生の音楽で1回。
この3回目の芝居の小屋入り前日に、わたしは蝶番で受賞し作家になり、この芝居の写真を見た出版社から船パリの依頼を受けました。
親友の熊田千穗はプロのジャズシンガーとなり、月子とイグアナ山椒魚にも奔放なモダンガールの歌うたい、まどかとして登場しています。
船パリの音楽監修も。熊田千穗なくしてこの作品は仕上がりません。

そしてわたしは先日とある金策でみずほ銀行と密談しているのを、我が家の篠山月子(妹)に見つかる。笑。

物語はいつも先にあって、
そこからわたしを手招きしています。あとから現実が追いついて、歴史になって初めてわかる。

あのとき、あの場面で流れていた「港が見える丘」の重要さ。
それは同時に井上ひさしという劇作家の偉大さでもある。

18のわたしはそれには気づかなかったけれど、でも必死にそのドラマ(物語)の端くれを握りしめてここまできました。

そんなすべてについて、ひとしきり考える、素晴らしい夜になりました。このターニングポイントのことを忘れずに、わたしの、書き終わらないと終わらない残暑を駆け抜けて行こう。

以上、エッセイではありませんが、モカコ、昨日の投稿の詳細を語る、でした。

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