甘滴恋情事/第三帖”雪溶け”
「ではまた後ほど」
粋元硯はそういうとすっと奥へ消えていった。
後ほど、の約束をしてはいないが、形式として君志乃も「ええ」と答え、硯とは反対方向の廊下へむかって進んだ。
『萌葱(もえぎ)・ヲ・931空』と彼は言った。
その言い方でおそらく彼が一般的な玉芳庵のお客ではないことに君志乃は気づいていた。その中でも末尾に『空』とついていた。予約番号の末尾に漢字がついていたのは、易者の紹介で初めてここを訪れたときだけだ。
もしかして彼は今日初めてあの艶ノ香湯に? いやでもそんなはずはない。だってわたしが予約しているもの。
釈然としないところがあるが、直接本人には聞けない。あの言い方をいぶかしがるということはすなわち秘密を知っていると告白するようなものだ。
手の中で艶ノ香湯の鍵がチャリと鳴った。
そうよね、今日彼がこの湯にはいるはずはない。
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甘滴恋情事、第三帖「雪溶け」UPされました!!
どんどん耽美の世界が奥へ開いてゆく!?
(写真はイメイジ)
http://mf-fleur.jp/rouge/83/
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