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2010年1月25日 (月)

Mon vieil ami

Mon vieil ami -私の昔の友だちーImg_1873_3
このことをとってもクリアに話すことはできないんだ。
たとえば子供の頃から大切に持っている宝物をふとした拍子に誰かに見せたとき、
その誰かが悪気なく「がらくただね(笑)」と笑ったときに、自分の中で、とりかえしのつかない部分が壊れてしまうことってあるだろう?
それと同じでこのことは曖昧に話すことに意味があるんだよ。
ほら、全部うそだよって、笑ってごまかせるくらいの曖昧さでくるんでさ、
大事なものは守らなくちゃね。
そんなに心配なら、自分の心にしまっておけばいいのかもしれないけど、僕は話したいんだ。
遠い異国の地で、ずっと昔の友だちに会ったのかもしれないことを。
そいつがもしかしたら、僕をこの場所に連れてきてくれたのかもしれないことを。

”Mon Vieil Ami ”僕は僕の小さな旅で、親しい誰かに出会ったんだ。
とても親しかったのに、親しかったことすら忘れてしまったあの誰かと。

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モンサンミッシェルに行くということが旅の目的だったのに、なぜそこまでしてモンサンミッシェルに惹かれるのか、理由が分からなくて私はぼんやりしていた。
ぼんやりしたまま、窓の外から一風変わった木を眺めては「片足ダチョウのエルフ」の最後のシーンを思い出していた。

 
ガイドさんがとってもキュートで、話し上手で、彼女がフランスの百年戦争と、ジャンヌダルクの話をし終わったとき、バスの中で拍手が起きていた。

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今もしあの、可愛いピンクのバラが目印のガイドさんに何か一つ質問を許されるとしたら、聞きたいことは一つ。

「モンサンミッシェルの中にあったお墓は、お墓になる前はなんでしたか?」

レストランではなかったですか?

      
あたしは今回の旅でたくさんあたしを撮った。
それはまあ滑稽なくらいにあたしを撮った。

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そして撮りながら思ってたんだ。
この滑稽なあたしの写真達を、あたしが死んだあと妹や友だちはどんな風に見るのだろう。こんなくだらない写真を、ひとつずつ愛しく見てくれるといいな。
そしてその日は、そんなに遠くない、と。

春に書いた短編の中であたしがこんなことを書いていたことを、旅から戻ってきて思い出した。それは生まれ変わる人の言葉。
何かひとつ望めるとしたら、なんでもない仕草、や、ふるまい、を次にわたしが消えたときにも、誰かひとりでも懐かしく思いだしてくれたらいいなと思っています

わたしはわたしがここに生きていたということを残しておきたかった。
いつからだろう。自分があまり長く生きられないような気がしてきたのは。

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モンサンミッシェルは修道院で、あたしは実はあまり、神様や寺院の類いにぐっとこない。
ルーブルよりもオルセーが好きで、モナリザよりゴッホの絵に惹かれるし、モンマルトルの雑多が好きだ。
そんなあたしが修道院に来たかった理由を、来たら見つけられると思っていたけど、見つからなかった。

丁度、ここに来る前にお話を書いて、そのお話は、前世で親友だった友だちが今の世では、自分が飼ってた猫で、猫が死ぬときに「わたしたち親友だったの覚えてる?」って教えてくれる話だった。
そんな話を書いたせいか、私が修道院をめぐりながら考えていたことはこんなこと。

わたしがいなくなって、順番にみんないなくなったら、家族だったことも、親友だったことも、今覚えている大切な思い出を全部忘れてしまうんだろうか?ママのくしゃくしゃの笑顔も、妹のシュールなつっこみも、ともだちとこうして旅行したことさえ」

そんなことを考えて、何百年もたくさんの人間の一生を向かえ送り出してきたであろう、修道院の大きな丸い柱を抱きしめて、ひとりわたしは泣いた。
柱は太くて手は届かなかった。
しんとつめたい石に向かってわたしはたずねた。

みんな覚えてる?ここでどう生きたか?どんなことを大切に過ごしていたか?なぜここを訪れたか、誰が好きで、誰とうまくいかなかったか、浮遊してるあなたたちは覚えてる?」

わたし、死ぬことは怖くないの。ただ忘れてしまうことが怖いの。

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モンサンミッシェルを泊まりで訪れる人は少ないため、3じ半のバスで日帰りの人たちが帰ってしまったあとは、喧騒は消え、まるで、客人が帰ったあとの自宅のようだった。
柱を抱きしめて泣いているあたしとその床は、長い間、あたしだけのものだった。
ひとつの柱にゆっくり問いかけられるくらいに、時間があったんだ。

もちろん石は何も答えてはくれなかったけど。

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その広場にたどり着いたとき、
その場所を夢で見たことがあったということはすぐに思い出せたけどそこがレストランだったことを、最初私は思い出せなかった。
夕方、修道院も回り終わって、島を散策してたときのこと。
それでもそこがお墓であることに気付くのにとても時間がかかったから、
きっとわたしは心の中で、夢の奥の景色を見ていたんだと思う。

その場所を夢で見たことがあったのは絶対で、私はよく覚えていた。
なぜなら、全然知らない場所があんまりにクリアに夢に出てきていたから。
「あそこはどこなんだろう?」と、何日も考えていたもの。

でも「だから?」だからなんなの?それがよくわからない。
簡単にとおりすぎてはいけないことだけはわかったけど、立ち止まらず通りすぎた。
たぶんきっと、どこかふに落ちない顔をして。
夢の中で友だちのような人が通りすぎた路地を、その人の背中を追うように、
追いかけかけて、やめた。心の帳尻を合わせる時間がほしかったの。

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次の日の朝、わたしはまっすぐそこに向かって、墓の中にぽつん、と長い間じっと座っていた。墓なのにちっとも怖くないから、ここはわたしにとっていい意味の場所なんだと思った。昨日二回もラウンドした修道院の中はまるで知らないことだらけだったのに、
ここに座るわたしは、ここに潜んでいる何かをずっと前から知っているような気がする。

わたしは忘れてしまった夢を、一生懸命思い出そうとして、夢でみたようなアングルに移動してみた。
ああ、ここから見る景色を知っている。
ここから先は知らない。
このお墓は知らない。

ひとつひとつ確認しているうちに夢を思い出した。

あれは確かにレストランだった。白と赤のテーブルクロスのかかった、屋外のレストラン。
ランチが終わったあと、まだ忙しいのに、一緒に働いている仲間がいなくなって、まだ下げ物とかは残っていて、わたしは赤いトーションを持ったまま、彼を探した。彼を探したいけど、現場にスタッフは自分しかなくて、じりじりしてた。

Img_1850_2 でも。「だから?」
それがよくわからない。

よくわからないから、何か一番大事なものを置いてゆこうと決めた。
それは肌身離さず持ってる地元の神社の石と決まってた。
それを拾ってから舞台が成功し受賞したので、お守りとして毎日持ってたから。
でも置いていくのは不安すぎる。
そこで石を交換することにした。
足で土をポンと蹴ったら都合よく石がぽろっととれたので、その石を拾って、
変わりに持ってきた石を埋めた。最初からそこに埋まってたかのように、
少し頭を出してね。

それはいい「思いつき」のはずだった。いい「思いつき」。

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でも、不思議なことが起きたのはそこからなんだよ。
思いつきのはずだった石の交換をしたあと、わたしは急にそれが、
「誰かとの約束だった」ことを思い出したんだよ。
思い出したっていう言葉ほどはっきりした感覚ではなくて、
「そうだった気がする」ような。でも「たしかにそう」なような。

そして私はその約束をもう何百年も、果たすことができないでいたんだ。
わからないけれど。

でも確かに「思い出す」という言葉が一番しっくりくるような感情だったんだ。

そして約束をした相手は今、きっとこの世界にはいないんだね。
絶対に忘れてはいけない誰かだった。
家族のようなきょうだいのような親友のような…。

石を交換することはきっと、うまくいえないけど、
それ自体が約束ではなくて、
本当の約束を果たせない代わりにしたことなんじゃないかと思う。

「あたしきっと**するね」そう約束したはずなのにその**が思い出せない。
そしてあたしは、ずっと、約束をしたことさえ忘れていたんだね。

そして今も、あなたが誰か思い出せないでいる。
でも。

あなたはたぶん男で、
あたしの恋人ではなかった。
そうだよね?

修道院を仰いで、ミカエルさんに「ねえ あたしたち何を約束したの」
聞いてみたけど答えはもちろんでなかった。

おそろしく長い間、おそろしく長い間その約束が果たされずにいたこと。

それだけを思った。
申し訳なくて、申し訳なくて、涙がとまらなかった。

わたしは思った。
昨日もあたしは自分が死んで忘れられることを心配してたけど、

忘れられた猫が出てくる話を書いたけど、

忘れてたのはあたしだったんだね。

しかもずっと長い間、あたしはあなたを忘れてた。

でも思い出したんだよ。
何かを忘れていることを。
だからあたしはここにいるんだよね。いまここに。

約束までは思い出せないけど。
あなたの顔も思い出せないけど。

でもねえ、覚えてる?

誰も信じないだろうけど、誰かに言っても笑われるし、
この古いお墓はきっと何百年もお墓だったんだろうけど、

ここは、お墓になるまえはレストランだったんだよ。
     
赤と白のテーブルクロスがかかって、とても繁盛していた。

あたしとあなたは、そこで一緒に働いていた。

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目の前で思い出と共に景色が溶けていった。

Mon Vieil Ami
あたしはあなたに会うために、わざわざここにやってきたのよ。

日本からはるばる飛行機に乗って。
今はここに生きていないわたしの古い友達。
そうでなかったら、こんなふうに景色がぼやけないでしょ。
そうさせているのはあなたでしょ。そうでなかったら、
初めてきた場所で懐かしくなって泣いたりしないもの。

ねえ、ここは、確かにレストランだったよね。
そしてそのことを、
あたしとあなただけが知っている。

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コメント

先日は、遊びに来てくださってありがとうございました。とっても嬉しかったです。

素敵な旅をされたのですね。
実をいうと、この記事、何度も開いては読み返していたのです。でも、コメントを残せずにいました。
写真の中のモカコさん―寂しい色の海が背景の―が、すぐ隣にいて、対話しているような気にさえなったのに、声をかけられずにいた。そんな感じです。

涙が出ました。理由はわかりません。
ただ、シンプルに、人生は美しいなと思ったのです。
私にも捨てられない石があって、何年ものあいだ宝石箱のなかで眠っています。
果たすべき約束を持ってるからこそ、私たちはこの世に再生されたのでしょうか。そのように感じずにはいられないことってあります。

投稿: 真帆 | 2010年2月21日 (日) 21時20分

真帆さん
この日記は自分でも大切な日記です。
思った感情や感じたことをどこまでそのように書けたかというとわかりませんが、少なくとも印した、という感じです。この島にいるときの自分の写真が、自分であって自分でない誰かのような顔つきや表情をしていて、見入ってしまう写真がたくさんありました。

帰ってきてすぐに友人が演出する芝居の稽古公開を見て、どこか同じものを感じメールをしたら彼女が、
「生きていることが美しいと思える状態にいつもいたいと思う」と返信くれました。今また真帆さんも、
「シンプルに人生は美しい」と言葉をつむいでくれましたね。

なんなんでしょう。

投稿: もかこ | 2010年2月22日 (月) 16時04分

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